NO.54 不動産売買とアスベスト対策について

 みなさん「アスベスト」はご存じですか?アスベスト(石綿)は、天然にできた鉱物繊維で「せきめん」「いしわた」とも呼ばれています。石綿は、極めて細い繊維で、熱、摩擦、酸やアルカリにも強く、丈夫で変化しにくいという特性を持っていることから、建材(吹き付け材、保温・断熱材、スレート材など)、摩擦材(自動車のブレーキライニングやブレーキパッドなど)、シール断熱材(石綿紡織品、ガスケットなど)といった様々な工業製品に使用されてきました。しかし、石綿は肺がんや中皮腫を発症する発がん性が問題となり、現在では、原則として製造・使用等が禁止されています。健康被害を発生する可能性があることで既存の建材や商品で使われているアスベストの取り扱い(解体や廃棄等)は厳格に規定がありますが、更に2021年4月以降アスベスト対策が強化されており、2022年4月からは更に事前審査結果(アスベストの有無を調査)を所轄の労働基準監督署への報告も義務付けられることとなります。ますます厳格になるアスベスト対策ですが、不動産の売買にも影響があるので、どんなところに気を付けなくてはならないか考えてみましょう。

 「大気汚染防止法の一部を改正する法律」には、解体等工事に伴うアスベストの飛散を防止するため、受注者は解体等工事の前に、規制対象のアスベスト含有建材の有無の調査(事前調査)を行う、届出対象の特定建築材料が使用されていることが判明した場合は、解体等工事の発注者が都道府県等に届出を行い、解体等工事の施工者が作業基準を遵守して除去すべきこととなっています。

 2021年4月以降の対策強化のポイントを五つ記載しておきます。

①対象となる建材の拡大:アスベストが含有されている全ての建材が対象となり、これまでは対象となっていなかった屋根や外壁に使用されるスレートボードや、天井の吸音材ロックウール、サイディング、床タイル、壁紙他のシートなどがあるため、日常生活で身近にある建材は全て規制の対象となったと思ってもいいかもしれません。

②事前調査の信頼性の確保:アスベストの有無を確認する事前調査の方法も明確に定められ、これら事前調査に関する記録を作成し、解体等工事終了後3年間は保存することが義務付けられています。また2023年10月以降は必要な知識を有する者による事前調査の実施も義務付けられることになっています。

③作業記録の作成・保存:作業に関する記録を作成し保存することの義務化であり、発注者への報告も義務付けられています。併せて必要な知識を有する者による取り残しの有無等の確認も義務付けられています。

④直接罰の創設:解体等工事が短期間で終了してしまうようなケースで、適切な隔離等をせずにアスベストの除去作業を行った場合等の直接罰が創設されています。事前調査結果の報告義務違反については30万円以下の罰金、届出対象特定工事にかかる除去等の措置の義務違反については3カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が創設され厳しい罰則が規定されています。

⑤事前調査結果の報告(2022年4月以降):床面積の合計が80㎡以上の建築物の解体工事、および請負代金の合計額が100万円以上の建築物および対象工作物の改造、補修工事について、アスベスト含有建材の有無にかかわらず、元請け業者または自主施工者が事前調査結果を各自治体および所轄の労働基準監督署に報告することも義務付けられることになります。

その他では、最近よく目にしますが、解体等工事の元請け業者または自主施工者が工事を実施する際には、事前調査結果を公衆の見やすい場所に掲示するとともにその写しを現場に備え置くことも義務付けられています。

 それではこのアスベスト対策と不動産売買がどのように関わり合うのか考えてみましょう。宅建業法では、売り主が所有する建物についてアスベスト調査を実施した記録がある場合について、アスベスト使用の有無にかかわらず、その結果を買い主に説明する義務があります。築年数の古い物件については、アスベスト含有建材の使用の可能性も高くなるため、その対策費用はいくらくらいかかるのか?誰が(売主・買主)負担するのか?などの協議も発生する可能性もありますが、事前調査によって明確にすることは、不動産流通の安全性を担保するものでもあります。

 また、不動産業者、売主様、買主様ともに、物件の建築年から考えてアスベストが使用されている可能性が高い物件についての取り扱いは、アスベスト対策の情報を共有し、施工業者などが強化された規制について、対応漏れが発生することがないよう、施工業者の選定や、有資格者(建築物石綿含有建材調査士)の在籍、作業報告などに注意し、監督する必要があります。

 物件では、事業用不動産、投資用不動産などは、建物の所有者はアスベストの除去、もしくは封じ込め(造膜剤の散布など)、囲い込み(アスベスト含有建材を覆うなど)の対策を行う必要があり、必要な調査および調査結果に基づいた適切な対策を講じているかいないかで売買時の価格設定や流通そのものに悪影響を及ぼすことも考えられます。

 以上のように不動産売買においてもアスベスト対策を遵守し、今後細心の注意を払い進めていくことが重要であり、間違った対応により、数多くに人々に被害が及ぶアスベストの危険性を再認識したいと思います。売主様、買主様、不動産業者ともにいい取引により、お互いが幸せになれることを常に考えていきたいですね。